量子力学

井戸型ポテンシャルにおける透過率と反射率

質量\(m\)、エネルギー\(E\)の粒子について、\(x\)座標(定義域は\((-\infty,\infty)\))に沿って与えられたポテンシャルエネルギー\(V(x)\)のもとでの運動が波動関数\(\psi(x)\)で記述されるとする。
ここでは定常状態について考えることとし、波動関数の時間依存は考慮しなくてよいものとする。
このとき、確率の流れの密度は
\[
j(x) = – \frac{{\rm i} \hbar}{2 m}\left(\psi^{*}(x) \frac{\partial}{\partial x}\psi(x) – \psi(x) \frac{\partial}{\partial x} \psi^{*}(x)\right)
\]
で与えられる。以下の問いに答えよ。
ただし、\(\hbar\)はプランク定数であり(\(\hbar=h/2\pi\))、\(^{*}\)は複素共役を表す。

(1) \(+x\)方向に伝搬する波を表す波動関数が\(\psi(x) = A \exp({\rm i} kx)\)で与えられる。この波動関数に対応する確率の流れの密度を求めよ。ただし、\(A\)は複素数の定数、\(k\)は実数の定数とする。

(2) 波動関数が\(\psi(x) = A \exp(-kx)\)で与えられる場合の確率の流れの密度を求めよ。ただし、\(A\)は複素数の定数、\(k\)は実数の定数とする。

(3) \(x < 0\)で\(V(x) = 0\)、\(0 \le x\)で\(V(x) = V_0\)と定義されるポテンシャルに、\(x < 0\)の領域から粒子が\(+x\)方向に入射する。粒子のエネルギー\(E\)は\(0 < E < V_0\)である。波動関数がなめらかに接続することを利用して、各領域での波動関数を求めよ。ただし、\(x < 0\)の領域での波動関数は\(\psi(x) = A \exp({\rm i}kx) + B \exp(-{\rm i}kx)\)で表されるとし、解については\(A\)を含んだ形で表示してもよい。\(A\)と\(B\)は複素数の定数とする。\(\\ \)

(4) (3)の結果について、波動関数の表式から入射波、反射波、透過波の各成分についての確率の流れの密度の絶対値を求めて、このポテンシャルに対する反射率と透過率を求めよ。\( \\ \)

(5) \(x < 0\)と\(a < x\)で\(V(x) = 0\)、\(0 \le x \le a\)で\(V(x) = V_0\)と定義されるポテンシャルに\(x < 0\)の領域から粒子が\(+ x\)方向に入射する。また\(0 < E < V_0\)である。このポテンシャルに対する反射率と透過率を求めよ。ただし、\(a\)は正の実数である。\( \\ \)

(6) (5)について、\(E = V_0/2, V_0 \gg \hbar^2/(m a^2)\)の時の透過率を求めよ。

(1)
\[
\psi(x) = A {\rm e}^{{\rm i} k x}
\]
として、確率の流れの密度の式に代入すると
\[\begin{align}
j(x) &= – \frac{{\rm i} \hbar}{2 m}\left(A^{*} {\rm e}^{- {\rm i}k x} A ({\rm i} k) {\rm e}^{{\rm i} k x} – A {\rm e}^{{\rm i} k x} A^{*} (- {\rm i} k) {\rm e}^{- {\rm i} k x} \right) \\
&= |A|^2 \frac{\hbar k}{m}
\end{align}\]
と求まる。

(2) (1)と同様にして
\[
\psi(x) = A {\rm e}^{- k x}
\]
から
\[\begin{align}
j(x) &= – \frac{{\rm i} \hbar}{2 m} \left(A^{*} {\rm e}^{- k x} (-k) A {\rm e}^{- k x} – A {\rm e}^{- k x} A^{*} (- k) {\rm e}^{- k x} \right) \\
&= 0
\end{align}\]
と求まる。

(3) \(x < 0\)における波動関数を\(\psi^{<}(x)\)とする。すなわち
\[
\psi^{<}(x) = A {\rm e}^{{\rm i} k x} + B {\rm e}^{- {\rm i} k x}
\]
とする。\(x < 0\)における\({\rm Schr\ddot{o}dinger}\)方程式から
\[\begin{align}
– \frac{\hbar^2}{2 m} \frac{\partial^2}{\partial x^2} \psi^{<}(x) &= E \psi^{<}(x) \\
E &= \frac{\hbar^2 k^2}{2m}
\end{align}\]
が得られる。
\[
k = \pm \sqrt{\frac{2 m E}{\hbar^2}}
\]
であるが、\({\rm e}^{{\rm i} k x}\)を\(x\)が負の方向からの入射波と考えているので、符合は\(+\)を取るべきであり、
\[
k = \sqrt{\frac{2 m E}{\hbar^2}}
\]
となる。

\(x > 0\)における波動関数を\(\psi^{>}(x)\)とすれば、
\[
\psi^{>}(x) = C {\rm e}^{- \kappa x}
\]
と書く事が出来て、\(x >0\)における\({\rm Schr\ddot{o}dinger}\)方程式は
\[\begin{align}
\left(- \frac{\hbar^2}{2 m} \frac{\partial^2}{\partial x^2} + V_0 \right) \psi^{>}(x) &= E \psi^{>}(x) \\
E &= – \frac{\hbar^2 \kappa^2}{2 m} + V_0
\end{align}\]
ここでも
\[
\kappa = \pm \sqrt{\frac{2 m (V_0 – E)}{\hbar^2}}
\]
と\(\pm\)の符合が解の候補として出るが、物理的に\(x > 0\)の方向にポテンシャル内に侵入する解を選ぶことにすれば
\[
\kappa = \sqrt{\frac{2 m (V_0 – E)}{\hbar^2}}
\]
と選ぶべきである。

ここで、\(\psi^{<}(x)\)と\(\psi^{>}(x)\)が\(x = 0\)においてなめらかに繋がる条件から
\[\begin{align}
A + B &= C \\
{\rm i} k A – {\rm i} k B &= – \kappa C
\end{align}\]
が得られる。この2式から\(B, C\)を\(A\)で表すと
\[\begin{align}
B &= \frac{{\rm i} k + \kappa}{{\rm i} k – \kappa} A \\
C &= \frac{2 {\rm i} k}{{\rm i} k – \kappa} A
\end{align}\]
と求まるので、\(\psi^{<}(x), \psi^{>}(x)\)は
\[\begin{align}
\psi^{<}(x) &= A {\rm e}^{{\rm i} k x} + \frac{{\rm i} k + \kappa}{{\rm i} k – \kappa} A {\rm e}^{- {\rm i} k x} \\
\psi^{>}(x) &= \frac{2 {\rm i} k}{{\rm i} k – \kappa} A {\rm e}^{- \kappa x}
\end{align}\]
と求まる。ここに
\[\begin{align}
k &= \sqrt{\frac{2 m E}{\hbar^2}} \\
\kappa &= \sqrt{\frac{2 m (V_0 – E)}{\hbar^2}}
\end{align}\]
である。

(4) (3)で得られた波動関数から入射波、反射波、透過波の確率の流れの密度\(j^{\rm I}(x), j^{\rm R}(x), j^{\rm T}(x)\)は
\[\begin{align}
j^{\rm I}(x) &= \frac{\hbar k}{m} |A|^2 \\
j^{\rm R}(x) &= – \frac{{\rm i} \hbar}{2 m}\left(\psi^{<}(x) \frac{\partial}{\partial x} \psi^{<}(x) – \psi^{<}(x) \frac{\partial}{\partial x} {\psi^{<}}^{*}\right) \\
&= -\frac{\hbar k}{m} |A|^2 \\
j^{\rm T}(x) &= – \frac{{\rm i} \hbar}{2 m}\left(\psi^{>}(x) \frac{\partial}{\partial x} \psi^{>}(x) – \psi^{>}(x) \frac{\partial}{\partial x} {\psi^{>}}^{*}\right) \\
&= 0
\end{align}\]
と求まるので、反射率\(P^{\rm R}\)と透過率\(P^{\rm T}\)は
\[\begin{align}
P^{\rm R} &= – \frac{j^{\rm R}(x)}{j^{\rm I}(x)} = 1 \\
P^{\rm T} &= \frac{j^{\rm T}(x)}{j^{\rm I}(x)} = 0
\end{align}\]
と求まる。

(5) 対称性を見やすくするために、\(x\)座標を負の方向に\(\frac{a}{2}\)だけずらし、\(x < – \frac{a}{2}, x > + \frac{a}{2}\)において\(V(x) = 0\)、\( – \frac{a}{2} \le + \frac{a}{2}\)において\(V(x) = V_0\)としても、求める透過率、反射率は変わらないので、\(x\)座標をこのようにとる事にする。
領域\(x < – \frac{a}{2}, – \frac{a}{2} \le x \le \frac{a}{2}, x > \frac{a}{2}\)における波動関数を各々\(\psi^{\rm I}(x), \psi^{\rm II}(x), \psi^{\rm III}(x)\)と書く事にすると、以下のように表すことが出来る。
\[\begin{align}
\psi^{\rm I}(x) &= C \left( {\rm e}^{{\rm i} k (x + \frac{a}{2})} + R {\rm e}^{- {\rm i} k (x + \frac{a}{2})} \right)\\
\psi^{\rm II}(x) &= C \left( B_1 \cosh(\kappa x) + B_2 \sinh(k x)\right) \\
\psi^{\rm III}(x) &= C T {\rm e}^{{\rm i} k (x – \frac{a}{2})}
\end{align}\]
ここに
\[\begin{align}
k &= \sqrt{\frac{2 m E}{\hbar^2}} \\
\kappa &= \sqrt{\frac{2 m (V_0 – E)}{\hbar^2}}
\end{align}\]
である。

\(x = \pm \frac{a}{2}\)において、波動関数がなめらかに繋がる条件から、\(R, B_1, B_2, T\)は
\[\begin{align}
B_1 &= \frac{- {\rm i} k}{\kappa \sinh(\frac{\kappa a}{2}) – {\rm i} k \cosh(\frac{\kappa a}{2})} \\
B_2 &= \frac{{\rm i} k}{\kappa \cosh(\frac{\kappa a}{2}) – {\rm i} k \sinh(\frac{\kappa a}{2})} \\
T &= \frac{- {\rm i} k \kappa}{(\kappa \sinh(\frac{\kappa a}{2}) – {\rm i} k \cosh(\frac{\kappa a}{2}))(\kappa \cosh(\frac{\kappa a}{2}) – {\rm i} k \sinh(\frac{\kappa a}{2}))} \\
R &= \frac{- (k^2 + \kappa^2) \sinh(\frac{\kappa a}{2}) \cosh(\frac{\kappa a}{2})}{(\kappa \sinh(\frac{\kappa a}{2}) – {\rm i} k \cosh(\frac{\kappa a}{2}))(\kappa \cosh(\frac{\kappa a}{2}) – {\rm i} k \sinh(\frac{\kappa a}{2}))}
\end{align}\]
と求まる。

従って、透過率\(P^{\rm T}\)と反射率\(P^{\rm T}\)は
\[\begin{align}
P^{\rm T} &= |T|^2 = \left\{1 + \frac{V_0^2 \sinh^2(\kappa a)}{4 E (V_0 – E)} \right\}^{-1} \\
P^{\rm R} &= |R|^2 = \left\{1 + \frac{4 E (V_0 – E)}{V_0^2 \sinh^2(\kappa a)} \right\}^{-1}
\end{align}\]
と求まる。

言うまでもなく、
\[
P^{\rm T} + P^{\rm R} = 1
\]
が成立している。

(5) \(E = \frac{V_0}{2}\)から
\[
\kappa = \sqrt{\frac{m V_0}{\hbar^2}}
\]
であり、さらに\(V_0 \gg \hbar^2/(m a^2)\)なる条件から
\[
\kappa a \gg 1
\]
が導かれる。この時
\[
\sinh(\kappa a) \sim \frac{{\rm e}^{\kappa a}}{2}
\]
なので、
\[\begin{align}
P^{\rm T} &=\left\{1 + \frac{V_0^2 \sinh^2(\kappa a)}{4 \frac{V_0}{2} \frac{V_0}{2}} \right\}^{-1} \\
&\sim 4 {\rm e}^{- 2 \kappa a}
\end{align}\]
と求まる。