線形代数

線形写像の性質

平面上に、原点\(O\)を中心とする正五角形\(A_1 A_2 A_3 A_4 A_5\)がある。恒等写像ではないこの平面上の線形変換\(f\)が次の性質を持つものとする:
\[
f(\overrightarrow{OA_i}) = \overrightarrow{OA_j},\ f(f(\overrightarrow{OA_i})) = \overrightarrow{OA_i} \ \mbox{(任意の\(i\)について)}
\]

(1) \(f(\overrightarrow{OA_k}) = \overrightarrow{OA_k}\)なる頂点\(A_k\)が存在することを示せ。

(2) \(f(\overrightarrow{OA_1}) = \overrightarrow{OA_1}\)とすると、\(f(\overrightarrow{OA_2} = \overrightarrow{OA_5}\)かつ\(f(\overrightarrow{OA_3}) = \overrightarrow{OA_4}\)であることを示せ。

(1) まず、\(i \neq j\) ならば \(f(\overrightarrow{OA_i}) \neq \overrightarrow{OA_j}\)であることに注意する。なぜならば、この命題の対偶は\(f(\overrightarrow{OA_i}) = f(\overrightarrow{OA_j})\) ならば \(i = j\)であるが、今、\(f\)は線形変換なので\(f(\vec{0}) = \vec{0}\)が成り立つので、\(f(\overrightarrow{OA_i}) – f(\overrightarrow{OA_j}) = f(\overrightarrow{OA_i} – \overrightarrow{OA_j}) = \vec{0}\)ならば\(A_i = A_j\)、すなわち\(i = j\)が成り立つからである。

すなわち、この線形変換\(f\)は正五角形の5つの頂点\(A_1, A_2, A_3, A_4, A_5\)を重複の無いように、各々別の頂点に写すことを意味する。

そこで、証明すべき主張を背理法で示す。すなわち、全ての頂点が線形変換によって各々全て違う頂点に写ると仮定する。

ここで、頂点の記号はどのように付けても一般性は失わないので、最初に任意に\(A_1\)を選んだ後、残りの頂点を次のように番号を付ける事にする。

まず、\(A_1\)は仮定より\(A_1\)以外の頂点に写る。便宜上、その頂点を\(A_2\)と名付けることにする。すなわち
\[
f(\overrightarrow{OA_1}) = \overrightarrow{OA_2}
\]
となるように頂点\(A_2\)を名付ける。すると条件より
\[
f(\overrightarrow{OA_2}) = f(f(\overrightarrow{OA_1})) = \overrightarrow{OA_1}
\]
となり、頂点\(A_2\)は頂点\(A_1\)に写る事が分かる。

さらに、まだ名付けられていない頂点の1つを\(A_3\)と名付け、それが\(f\)によって移る先を\(A_4\)と名付けると、同様の議論によって
\[
f(\overrightarrow{OA_3}) = \overrightarrow{OA_4} \\
f(\overrightarrow{OA_4}) = \overrightarrow{OA_3}
\]
が言える。

すると、最後に残った頂点を\(A_5\)と名付けると、\(f(\overrightarrow{OA_5})\)は\(\overrightarrow{OA_5}\)以外の頂点に写るはずであるが、そのような頂点は残されておらず、矛盾が生じる。

従って、題意が示された。

(2) (1) により少なくとも1つの頂点は\(f\)により自分自身に写る。そのような頂点を1つ選び必要があれば頂点の記号を入れ替える事により\(A_1\)としても一般性は失わない。

今回は(1)の時の証明を違い、頂点\(A_1\)を決めたあと、反時計回りに各頂点を\(A_2, A_3, A_4, A_5\)と名付ける。

ここで
\[
\overrightarrow{OA_2} + f(\overrightarrow{OA_2})
\]
なるベクトルを考えると、これは\(f\)により自分自身に写る。なぜなら
\[
f(\overrightarrow{OA_2} + f(\overrightarrow{OA_2})) = f(\overrightarrow{OA_2}) + f(f(\overrightarrow{OA_2})) = f(\overrightarrow{OA_2}) + \overrightarrow{OA_2}
\]
となるからである。

一方、\(\overrightarrow{OA_1}\)も線形変換\(f\)により自分自身に写るので、これら2つのベクトルは線形独立であってはならない。なぜなら、線形独立であるとすると2つの線形独立なベクトルが線形変換により自分自身に写ることになってしまい、これは線形写像\(f\)が恒等写像であることを意味し、\(f\)が恒等写像でない事に反するからである。

従って、便宜上、\(\overrightarrow{OA_1}\)方向に\(x\)軸を取るとすると\(\overrightarrow{OA_2} + f(\overrightarrow{OA_2})\)の\(y\)成分は\(0\)であるはずである。正五角形でこのような関係にある頂点のペアは、\(\overrightarrow{OA_2}\)と\(\overrightarrow{OA_5}\)、\(\overrightarrow{OA_3}\)と\(\overrightarrow{OA_4}\)しか許されない。

ここで、上述のように\(x-y\)軸を決めると正五角形の各頂点は
\[\begin{align}
\overrightarrow{OA_1} &= (1, 0) \\
\overrightarrow{OA_2} &= (\cos(2 \pi/5), \sin(2 \pi/5)) \\
\overrightarrow{OA_3} &= (\cos(4 \pi/5), \sin(4 \pi/5)) \\
\overrightarrow{OA_4} &= (\cos(6 \pi/5), \sin(6 \pi/5)) \\
\overrightarrow{OA_5} &= (\cos(10 \pi/5), \sin(10 \pi/5)) \\
\end{align}\]
と表せることを用いた。

従って、題意が示された。