\begin{align}
A =
\begin{pmatrix}
0 & \sqrt{-1} \\
\sqrt{-1} & 0 \\
\end{pmatrix},
B =
\begin{pmatrix}
0 & 1 \\
-1 & 0 \\
\end{pmatrix} \in GL_2(\mathbb{C})
\end{align}
で生成される $GL_2(\mathbb{C})$ の部分群を $Q_8$ と置く。
(a) $A^4 = E_2, B^2 = A^2, B A B^{-1} = A^{-1}$ を確かめよ。
(b) $Q_8$ は位数 8 の群であることを示せ。
(c) 中心 $Z(Q_8)$ を求めよ。
(d) $Q_8$ の任意の部分群は正規部分群であることを示せ。
(e) 群 $G$ が2つの元 $a, b$ で生成され、$a, b$ は関係式 $a^4 = 1, b^2 = a^2, b a b^{-1} = a^{-1}$ を満たすとする。
このとき、$|G| \le 8$ であることを示せ。
さらに、$|G| = 8$ ならば、$G$ は $Q_8$ と同型であることを示せ。
(f) 群 $G’$ が4つの元 $i, j, k, u$ で生成され、$i, j, k, u$ は関係式
\begin{align}
i^2 &= j^2 = k^2 = u \\
u^2 &= 1 \\
i \circ j &= k, \\
j \circ k &= i, \\
k \circ i &= j,
\end{align}
を満たすとする。
このとき、$|G’| \le 8$ であることを示せ。
さらに、$|G’| = 8$ ならば $G’$ は $Q_8$ と同型であることを示せ。
(a)
\begin{align}
A^2 &=
\begin{pmatrix}
0 & \sqrt{-1} \\
\sqrt{-1} & 0 \\
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
0 & \sqrt{-1} \\
\sqrt{-1} & 0 \\
\end{pmatrix} \\
&=
\begin{pmatrix}
-1 & 0 \\
0 & -1 \\
\end{pmatrix} \\
A^4 &= E_2 \\
B^2 &=
\begin{pmatrix}
0 & 1 \\
-1 & 0 \\
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
0 & 1 \\
-1 & 0 \\
\end{pmatrix} \\
&=
\begin{pmatrix}
-1 & 0 \\
0 & -1 \\
\end{pmatrix} \\
&= A^2 \\
BAB^{-1} &=
\begin{pmatrix}
0 & 1 \\
-1 & 0 \\
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
0 & \sqrt{-1} \\
\sqrt{-1} & 0 \\
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
0 & -1 \\
1 & 0 \\
\end{pmatrix} \\
&=
\begin{pmatrix}
0 & – \sqrt{-1} \\
– \sqrt{-1} & 0 \\
\end{pmatrix} \\
&= A^{-1}
\end{align}
(b)
先ず、明らかに $A \neq B$ なので、$\{A, B\} \subset Q_8$ である。
また、(a) より $A^4 = E_2$ なので、$Q_8$ には単位元 $E_2 \in Q_8$ が含まれる。
さらに、$A^2 = B^2 = – E_2$ より、$A^{-1} = – A, B^{-1} = – B$ が分かり、明らかに、$-A, – B$ は $E_2, A, B$ のどれとも異なる。また、$-E_2$ も $Q_8$ に含まれることが分かる。
また、$A^3 = A^2 A = – E_2 A = -A, B^3 = B^2 B = – B$ であり、どちらも今までに現れた元で表すことが出来る。
以上で示されたことは
\begin{align}
Q_8 \supset \{\pm E_2, \pm A, \pm B\}
\end{align}
である。
次に、$A$ と $B$ の積を考える。
\begin{align}
AB &=
\begin{pmatrix}
0 & \sqrt{-1} \\
\sqrt{-1} & 0 \\
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
0 & 1 \\
-1 & 0 \\
\end{pmatrix} \\
&=
\begin{pmatrix}
– \sqrt{-1} & 0 \\
0 & \sqrt{-1} \\
\end{pmatrix}
\end{align}
となり、これまでに現れた元とは異なる。
さらに、この逆元は
\begin{align}
\begin{pmatrix}
– \sqrt{-1} & 0 \\
0 & \sqrt{-1} \\
\end{pmatrix}^{-1} &=
\begin{pmatrix}
\sqrt{-1} & 0 \\
0 & – \sqrt{-1} \\
\end{pmatrix} \\
&= – AB
\end{align}
となり、これも新しい元となる。
一方で、$BA$ を計算すると
\begin{align}
BA &=
\begin{pmatrix}
0 & 1 \\
-1 & 0 \\
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
0 & \sqrt{-1} \\
\sqrt{-1} & 0 \\
\end{pmatrix} \\
&=
\begin{pmatrix}
\sqrt{-1} & 0 \\
0 & – \sqrt{-1} \\
\end{pmatrix} \\
&= – AB
\end{align}
となり、新たな元とはならない。この逆元も $(BA)^{-1} = AB$ となり、新たな元とはならない。
最後に $AB$ とこれまでに $Q_8$ に含まれていると分かっている $\pm A, \pm B$ との演算を考える。
\begin{align}
A (AB) &= A^2 B = – B \\
(AB) A &= A(BA) = A(A^{-1} B) = B \\
B (AB) &= (BA) B = (A^{-1} B) B = A^{-1} B^2 = – B \\
(AB) B &= A B^2 = – A
\end{align}
となり、全てこれまでに現れた元で表されることが分かる。
$BA$ についても同様である。
さらに、$AB$ 自身の2乗を計算すると
\begin{align}
(AB)^2 &=
\begin{pmatrix}
– \sqrt{-1} & 0 \\
0 & \sqrt{-1} \\
\end{pmatrix}^2 \\
&= – E_2
\end{align}
となり、やはりこれまで得られている元に含まれる。
以上の議論により、
\begin{align}
Q_8 &= \{\pm E_2,\pm A, \pm B, \pm AB\}
\end{align}
で与えられる $Q_8$ 群となり、その位数は 8 であることが分かる。
(c)
群 $Q_8$ の中心 $Z(Q_8)$ の定義は
\begin{align}
Z(Q_8) &= \{g \in Q_8| \forall h \in Q_8, g \circ h = h \circ g\}
\end{align}
であり、$\pm E_2$ は明らかに $Z(Q_8)$ に含まれる。
また、他の元は上記の条件を満たさない。従って
\begin{align}
Z(Q_8) &= \{\pm E_2\}
\end{align}
と求まる。
(d)
群 $G$ の位数が 8 であるので、群 $G$ の部分群は位数が 1, 2, 4, 8 である。
このうち、位数が 1 の部分群は自明な部分群 $\{E_2\}$ であり、位数 8 の部分群は $G$ そのものである。
従って、この2つは明らかに正規部分群となる。
先に、指数が 2 の部分群は正規部分群であることを示した。(参照)
従って、位数が 4 の部分群は正規部分群となる。
これより、確かめるべきは位数が 2 の部分群であるが、これは $G’ = \{\pm E_2\}$ であり、明らかに正規部分群である。
以上より題意が示された。
(e)
群 $G$ が2つの元 $a, b$ で生成されるとする。
このとき、$f(A) = a, f(B) = b$ を満たす、全射な準同型写像 $f: Q_8 \rightarrow G$ が存在することが分かる。
実際に、群 $G = \langle a, b \rangle$ に対して、$f(A) = a, f(B) = b$ を満たす準同型写像を $f: Q_8 \rightarrow G$ とすると
\begin{align}
f(A^4) &= f(E_2)\ \mbox{より}\ a^4 = 1 \\
f(B^2) &= f(A^2)\ \mbox{より}\ b^2 = a^2 \\
f(B A B^{-1}) &= f(A^{-1})\ \mbox{より}\ b a b^{-1} = a^{-1}
\end{align}
が成り立つ。
このとき、$a^4 = 1$ より、$a^3 = a^{-1}$ が得られ、同様に、$b^4 = (b^2)^2 = (a^2)^2 = a^4 = 1$ より、$b^{-1} = b^3$ が得られる。
さらに、$b a b^{-1} = a^{-1}$ より、$b a = a^{-1} b = a^3 b$ と $a b = b^{-1} a^{-1} b^2 = b^3 a^3 a^2 = b^3 a$ も言える。これらの逆元も $a, b$ で表すことが出来る。
従って、準同型写像 $f: Q_8 \rightarrow G$ は $G = \langle a, b \rangle$ への全射であることが分かる。
従って、$|G| \le |Q_8| = 8$ が成り立ち、特に $|G| = 8$ のときには、準同型写像 $f$ は全単射となり、$G \cong Q_8$ が言える。
(f)
問題 (e) との類似性に注目して、準同型写像 $f’: Q_8 \rightarrow G’$ を $f'(A) = i, f'(B) = j$ と定める。
このとき、
\begin{align}
f'(A^2) &= f'(B^2)\ \mbox{より}\ i^2 = j^2 \\
f'(A^4) &= f'(E_2)\ \mbox{より}\ i^4 = 1 \\
f'(BAB^{-1}) &= f'(A^{-1})\ \mbox{より}\ j \circ i \circ j^{-1} = i^{-1}
\end{align}
が成り立つ。
さらに、$f'(AB) = f'(A) \circ f'(B) = i \circ j = k, f'(-E_2) = u$ と定めると
\begin{align}
f'((AB)^2) &= f'(AB) \circ f'(AB) = k \circ k = u \\
f'(B(AB)) &= f'(B) \circ f'(AB) = j \circ k = i \\
f'((AB) A) &= f'(AB) \circ f'(A) = k \circ i = j
\end{align}
が成り立つ。先の3番目の式は、これらの関係式を使えば
\begin{align}
j \circ i \circ j^{-1} &= k \circ i \circ i \circ i^{-1} \circ k^{-1} \\
&= k \circ i^2 \circ i^3 \circ k^3 \\
&= k \circ i \circ k^3 \\
&= j \circ k \circ k^2 \\
&= i \circ k^2 \\
&= i \circ i^2 \\
&= i^3 \\
&= i^{-1}
\end{align}
となり、これらの関係式と矛盾しない。
従って、準同型写像 $f’: Q_8 \rightarrow G’$ は群 $G’ = \langle i, j, k\rangle$ への全射となる。
従って、$|G’| \le 8$ が言えて、$|G’| = 8$ であれば、$f’$ は全単射となり、$G’ \cong Q_8$ が言える。