代数学

準同型定理の応用(2)

$G’ = \{f(X) = p X + q|p, q \in \mathbb{R}, p \neq 0\}$ を $\mathbb{R}$ 上の1次関数全体の集合とする。
また
\begin{align}
G &=\left\{
\begin{pmatrix}
a & b \\
0 & c \\
\end{pmatrix}\middle|
a, b, c \in \mathbb{R}, a c \neq 0\right\}, \\
H &=\left\{
\begin{pmatrix}
a & b \\
0 & c \\
\end{pmatrix} \in G \middle|
a c = 1 \right\}
\end{align}
とする。
また、写像 $\varphi$ を
\begin{align}
\varphi: G &\rightarrow G’,\\
\begin{pmatrix}
a & b \\
0 & c \\
\end{pmatrix}
&\mapsto
\frac{a}{c} X + \frac{b}{c}
\end{align}
で定義し、写像 $\psi: H \rightarrow G’$ を $\varphi$ の定義域を $H$ に制限した写像とする。
このとき、以下の問の答えよ。

(a) $G’$ は写像の合成に関して群をなすことを示せ。

(b) $G$ は行列の乗法に関して群をなすことを示せ。
また、$H$ は $G$ の正規部分群であることを示せ。

(c) $\varphi$ は群の準同型写像であることを示せ。
また、${\rm Im}\varphi, {\rm Ker}\varphi$ を求めよ。
さらに、$\varphi$ に準同型定理を用いると、どのような群の同型が得られるか?

(d) $\psi$ は群の準同型写像であることを示せ。
また、${\rm Im}\psi, {\rm Ker}\psi$ を求めよ。
さらに、$\psi$ に準同型定理を用いると、どのような群の同型が得られるか?

(a)
$f(X) = p_1 X + q_1, g(X) = p_2 X + q_2 \in G’$ とする。
このとき、$g \circ f$ は
\begin{align}
g \circ f(X) &= g(p_1 X + q_1) \\
&= p_2(p_1 X + q_1) + q_2 \\
&= p_2 p_1 X + (q_2 + p_2 q_1)
\end{align}
となり、$p_1, q_1 \neq 0$ より、$p_1 q_1 \neq 0$ であるので、$g \circ f \in G’$ が言える。

また、単位元は $p = 1, q = 0$ とした $f(X) = X$ である。

さらに、任意の $G’$ の元 $f(X) = p X + q \in G’$ に対して、その逆元 $f^{-1}$ は $p \neq 0$ に注意して
\begin{align}
f^{-1}(X) &= \frac{1}{p} X – \frac{q}{p}
\end{align}
により得られる。

従って、$G’$ は写像の合成に関して群をなすことが分かる。

(b)
$G$ の任意の元 $g_1, g_2 \in G$ を
\begin{align}
g_1 &=
\begin{pmatrix}
a_1 & b_1 \\
0 & c_1 \\
\end{pmatrix}, \\
g_2 &=
\begin{pmatrix}
a_2 & b_2 \\
0 & c_2 \\
\end{pmatrix}
\end{align}
とすると、その積 $g_2 g_1$ は
\begin{align}
g_2 g_1 &=
\begin{pmatrix}
a_2 & b_2 \\
0 & c_2 \\
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
a_1 & b_1 \\
0 & c_1 \\
\end{pmatrix} \\
&=
\begin{pmatrix}
a_2 a_1 & a_2 b_1 + b_2 c_1 \\
0 & c_2 c_1 \\
\end{pmatrix}
\end{align}
となり、$a_2 a_1 c_2 c_1 \neq 0$ より、これは $G$ の元であることが分かる。

また、単位元は明らかに
\begin{align}
e &=
\begin{pmatrix}
1 & 0 \\
0 & 1 \\
\end{pmatrix}
\end{align}
である。

さらに、任意の $G$ の元
\begin{align}
g &=
\begin{pmatrix}
a & b \\
0 & c \\
\end{pmatrix} \in G
\end{align}
に対して、その逆元は
\begin{align}
g^{-1} &= \frac{1}{ac}
\begin{pmatrix}
c & – b \\
0 & a \\
\end{pmatrix}
\end{align}
であり、これも $G$ の元である。

従って、$G$ は行列の乗法に関して群をなすことが分かる。

さらに、$H$ の任意の元
\begin{align}
h &=
\begin{pmatrix}
a & b \\
0 & c \\
\end{pmatrix}
\end{align}
に関して、$a c = {\rm det} h$ であることに注意すれば、$h_1, h_2$ を $H$ の任意の元とするときに、行列式の性質
\begin{align}
{\rm det}(h_2 h_1) &= ({\rm det}h_2)({\rm det}h_1)
\end{align}
から、$h_2 h_1 \in H$ が言える。

また、単位元も明らかに $H$ に含まれる。

さらに、$G$ が群であることを示した証明の過程において、その逆元を見れば、$H$ の任意の元 $h \in H$ の逆元もその行列式が1となり $h^{-1} \in H$ となることが分かる。

従って、$H$ は $G$ の部分群となる。

さらに、$g, h$ を2行2列の正則行列とした時に成り立つ行列式の性質
\begin{align}
{\rm det}(g h g^{-1}) &= ({\rm det}g) ({\rm det} h) ({\rm det} g^{-1}) \\
&= ({\rm det} g) ({\rm det} h) ({\rm det} g)^{-1} \\
&= {\rm det} h
\end{align}
から、$g \in G$ とした時に $g H g^{-1} \subset H$ が言えて、同様の議論を $g^{-1} \in G$ に対して行えば $g^{-1} H (g^{-1})^{-1} \subset H$ が言えるので、結局 $g H g^{-1} = H$ が成り立つ。
すなわち、$H$ は群 $G$ における正規部分群をなすことが分かる。

(c)
$g_1, g_2 \in G$ とし
\begin{align}
g_i &=
\begin{pmatrix}
a_i & b_i \\
0 & c_i \\
\end{pmatrix}\ (i = 1, 2)
\end{align}
とすると、
\begin{align}
\varphi(g_2 g_1) &= \varphi\left(
\begin{pmatrix}
a_2 a_1 & a_2 b_1 + b_2 c_1 \\
0 & c_2 c_1 \\
\end{pmatrix}\right) \\
&= \frac{a_2 a_1}{c_2 c_1} X + \frac{a_2 b_1 + b_2 c_1}{c_2 c_1}
\end{align}
となる。一方で
\begin{align}
\varphi(g_2) \circ \varphi(g_1) &= g_2\left(\frac{a_1}{c_1} X + \frac{b_1}{c_1}\right) \\
&= \frac{a_2}{c_2}\left(\frac{a_1}{c_1} X + \frac{b_1}{c_1}\right) + \frac{b_2}{c_2} \\
&= \frac{a_2 a_1}{c_2 c_1} X + \frac{a_2 b_1 + b_2 c_1}{c_2 c_1}
\end{align}
となることから、写像 $\varphi$ は群の準同型写像であることが分かる。

さらに、明らかに ${\rm Im}\varphi = G’$ であり、
\begin{align}
{\rm Ker}\varphi &= a E_2\ (a \neq 0)
\end{align}
であることが分かる。ここに、$E_2$ は2行2列の単位行列である。

従って、準同型定理より
\begin{align}
G/(a E_2) &\cong G’\ (a \neq 0)
\end{align}
が言える。

(d)
(c) と全く同様にして、$\psi$ が群の準同型写像であることが分かる。
また、${\rm Im}\psi = \{f(X) = p X + q|p,q \in \mathbb{R}, p > 0\}$ であり、さらに、${\rm Ker}\psi = \{E_2, – E_2\}$ であることが分かる。

従って、準同型定理より
\begin{align}
H/\{E_2, – E_2\} &\cong \{f(X) = p X + q|p, q \in \mathbb{R}, p > 0\}
\end{align}
が言える。